逆引き武士語『お慕い申す』☜「愛しています」


『おしたいもうす』

『お慕い申しあげます』
と、裃着けて告られたら、それまでさしたる感情がなかったとしても、
少なからず動揺するでしょう。
きっと、このことばには、
いとしい気持ち、いつくしむ心、大切にしたい思い、敬う心‥…優しい養分が、ぎっしりと詰まっているからだろう。

☞そもそも武士の時代、男女の恋情を表現する言葉は、多彩だった。
身分により、様相により
「恋う」「焦がれる」「切なし」
思いの深浅により、
「れんぼ」(恋慕)=「恋い慕う」
「けそう」(懸想)=「好きだなと思いをかける」
「なつかし」(懐かし)=「こころ魅かれる」
と、使い分けられたようだ。

☞武士の物言いではないと思うが
『おかぼれ』(岡惚れ)も時代劇でよく耳にする。
親しく接してはいない人を「脇からひそかに恋い慕う」
という意。いまでは、ストーカーと一緒くたにされてしまいそう。

☞平安期に遡ると「めづ」だ。
『いかで このかぐや姫を得てしがな 見てしがなと おとに聞きめでて まどふ』(竹取物語)
心を得たい、結婚したい、と慕い焦がれ、思い乱れる、貴公子たちの浮き足だった求婚模様。

「めづ」は「ほめる」「感心する」という意味でも使われる。
愛の言霊として力不足は否めない。
ゆえに貴公子たちは、かぐや姫の心を奪えず、すべなくすげなく、
袖にされたのだ。

☞かぐや姫の時代、「恋ふ」とは、相手が目の前にいないときの感情をあらわした。
恋がとげられる状態は「見る」とか
「逢ふ」とかで表した。

☞古墳時代にまで遡ると、言葉は不要、女性の住居の前で、名前を呼ぶことが愛の表現だった。
これを「よばひ」といい、
古事記では「用婆比」、万葉集では「夜延」と表記している。

[一筆余談啓上]

ところで、「愛」という漢字は、論語には見当たらないが、中国では紀元前から使われていた。
仁・義・徳・礼、で縁取った意味で用いられてきた。
女性を愛する表現には「色」があてられた。


戦国末期、上杉の直江兼続が、愛とい
う文字を兜の前立てにつけたことはよく知られている。
この愛の一字に
こめた思いは、どこにあったのだろうか。
愛染明王の愛?、愛宕神社の愛?
仏教用語の愛は、執着、煩悩を表すので、それでもないだろう。
彼の生涯を俯瞰すると、民への慈愛だと思うのだが。
江戸人もLOVEという単語に出会っては、いる。
キリシタン宣教師が伝え
たのだろう、
それは「大切に」と訳さ
れた。
LOVEに、愛という字をあてたのは、福
沢諭吉だという。
「相思相愛」から導いたという。
夏目漱石は、I LOVE YOUを「月がとてもきれいだ」と訳している。

 

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