逆引き武士語『然様』☜「その通り」


『さよう』


「その通りだ」と相手の言っていることを肯定したり、
「はい、その通りです」と首肯く意味の「さよう」のルーツは、上代語の「さあり」(然あり)とされる。
「さあり」が音変化した「さり」(然り)も、「そうである」の意で使われる。

☞さらに解析すると「さ」(然)も独立した一語で、
「さ」だけでも「そう」「そのように」という意味になる。
「よう」(様)は、様子の様で、「ありさま」「理由」「事情」「仔細」を表す。「さ」の状態を補強するように組み合わさり連語を成している。

☞「左様」が大手を振っているが、然+様=然様と表記するべきだと思う。「然様」で一本化されれば、「右様」はないのか?などといったり「左記」と同じ「左」かと、いらぬ勘違いをするようなこともなくなる。

☞「そうか」というところを「さようか」(然様か)と、言ってみたり、
「然様のこともあらん」などの言い方も、いかにも武士然とした物言いになる。
「しかしながら」「そうですが」は、「さりながら」(然りながら)
「そうかといって」は、「さりとて」(然りとて)
これらも、時代劇ではよく使われる。

「然様」と似た意味を持つのが「しかり」
「そうだ」「そのように」の意の「しかあり」の約語で、漢字にすると「然り」で、「さり・然り」と同じなのでややこしいが、
どちらにとっても、解釈にそう誤差はない。
「しからば」(然らば)は、「そうであるならば、それでしたら」、
「しかれば」(然れば)は、「そうであるから、それゆえ、だから」
の意味で用いる。

☞「そうそう」、「そういえば」というように、思い出したことに自分で頷いて、話し出すときに「さよう」と使いたい。
そう切り出されたら、何を言い出すのかと相手も、自ずと期待感を高める。考えをまとめるための時をかせぐのにも使えそうだ。

☞より一層武士語らしい使い方になるのが
「さよう」の前後にことばを連ねた口上だ。たとえば「ことほどさように」といえば、“どんだけ”と、後に述べる事柄の程度を強調する。
「さよう」と切り出し「しからば」とつづける、のも常套句。
「然らば」だけより、一層、「そういうこと」とか、「それ」という事情が強調され、やむをえない感が増す。
「さよう、しからば」は多分に形式ばったものいいだが、
肩の力を抜いたのが「さようであるなら」で、これが約まって身分の垣根をこえて「さようなら」になった。

「世の中は 然様で御座る 御尤も 何と御座るか しかと存ぜぬ」
これは、田沼意次政下の悪弊を誹った江戸狂歌。
この狂歌を元にしたのか、よく知られているのが、
「さようしからば ごもっとも そうでござるか しかとぞんぜぬ」
封建身分制度のなかで、無事勤めあげるための武士の処世訓とも評されるフレーズだ。
さよう(然様)=そう、その通り
しからば(然らば)=それならば、そういうことでしたら
ごもっとも(御尤も)=なるほど
そうでござるか(然うで御座るか)=そういうことですか
しかとぞんぜぬ(確と存ぜぬ)=よくわかりませんけど
背に腹は代えられない、武士もトホホ。長い物には蒔かれろ、相槌を上手にうっていさえすれば、世渡りできる。事を荒立てない人付き合いの智恵が読み込まれているが、
現代にも通じると思えるところが、こわい。
「ごもっとも」(御尤も)は「当然のことだ」「道義にかなっている」の意。「至極御尤も」などと時代劇でもよく用いられる。

☞現代語の「そうです」は「さようでござります」(然様で御座ります)が縮まったもの。
まず「そうでげす」になって、それを「そうです」と、江戸の辰巳芸者が使いはじめたという。

☞大坂で「そうです」に相当するのが「ごわす」
「ございまする」から「ごわす」になった。
お公卿さんの「そうでごわす」の真似がそもそもらしい。
西郷どんも「ごわす」というがこれも、公家ことばからきたようだ。

[一筆余談啓上]

この人が信頼に足るかどうか、身を託してよいものか、
判断する際
に「これは然諾を重んじる人だ」という。
「ぜんだく」、一度引き受け
たことは必ずやりとげるという意味。「然」に「諾」という文字のしつらえからして、まさに「然り」だ。

「然様」を英語に置き換えると「yes」であろうと思っていたが然にあらず。「yes」には「その通り、おっしゃる通り」という意味はないらしい。
「you are right」「 you are correct」「 Exactly」とかになるようだ。
「然様でしたか」というニュアンスの場合は、「Is that so?」とか「Oh, really?」とかになるのだそうだ。

然らば、「yes」を武士語に置き換えるとするなら、「うむ」とか「ん」になるのだろう。音声はなく、首を縦に振るだけだ。
ところで、武士も、呼ばれて応えたり、肯定、承諾を表す、いわば返事として「はい」と言っていたようだ。

作詞家の阿久悠氏は、「歌詞は縦書き」するそうだ。
縦書きは「はい」「yes」というように、首を縦に振るけれど、
横書きは「いやいや」「no」と、
首を横に振り、ダメだしするようでいけない、というようなことを書いていた。

 

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