逆引き武士語『埒を明ける』☜「解決する」
『らちをあける』
「この一件、らちをあけてみせやす」このひと言から、神田三河町の半七親分の謎解きが披露される。
岡本綺堂の『半七捕物帳』は、時代推理小説の先駆け、日本の探偵小説のルーツとされる作品。
居ながらにして幕末の江戸八百八町にタイムスリップできる。
☞らちは、漢字で「埒」。しきり(仕切り)、かこい(囲い)のこと。
あけるは、いうまでもなくオープン。
仕切り板をとることで開放された、懸案がなくなった、ということ。
古形は「埒明く」で、物事がはかどる、片がつくの意。
☞武士のことばとしては、「らくちゃくする」のほうが、らしい。
漢字は、落ち着く、と書いて「落着」、決まりがつくの意。
遠山金四郎の「これにて一件落着」の一声、桜吹雪が舞う。
目明かしが「埒をあけて」、奉行が「落着させる」という筋書きが決まって、花のお江戸は、今日も日本晴れという訳だ。
☞「らちがあかない」(埒が明かない)
らちが開くと解決するが、開かなければ、解決しない。
即ち「らちがあかない」で、「解決しない」となる。
馬場の柵が開かないと、競べ馬がはじまらないことから
「なにごともはじまらない」という意味になり「物事の決まりがつかない」「事態が進展しない」「解決しない」などの意に。
一説では、春日大社の祭礼「埒明け」に由来するとも。
大社の金春太夫が親王と祝詞を読みあげないと、神輿の周りに巡らした柵が開かないので、中に入れない。で「はじまらない」に。
[一筆余談啓上]
「はたらき」は「止まっていたものが急に動く」さまを表現した。
擬音語の「はた」に「めく」で「ひるがえる、ゆらゆら動く」さまを表した「はためく」と同類。
動きだした様子の表現から“身体を動かす”意味に発展し「活躍する様子、活躍ぶり」を表した。
いつの頃からか「労働」の意味あいが色濃くなった。
平安貴族には、労働の概念そのものがなかったから、開墾武士が登場し、社会の主役におどりでた頃からだろう。
用いられることが増大して、仮名のみでは用を足さなくなったのか、漢字まで創造された。
人が動くで「働」。「働」は、日本生まれの漢字だ。
後には、中国伝来の「労」と結びついて「労働」ということばも生んだ。
中国古典には、「労ニ服ス」という文例がみられる。
「労イテコレヲ問ウ」では「労」を“ねぎらう”と読んだ。
力を尽くして頑張っている姿を見て、
「労」に、ねぎらう、いたわるという思いを与えたのだろう。
そもそも「労働」ということばは、「はたらきをねぎらう」という意味なのだと、長時間労働、過重労働を強いている企業は、心したい。
働きに「効果」や「機能」の意味を持たせたのは、江戸時代に、はいってからのことだろう。
「汗馬之労」という史記とも韓非子ともを典拠とする故事がある。
馬に汗をかかせるような働き。物事をなしとげるために、汗をかいて奔走する、ということ。
「汗馬の労をいとわず」
というように使われる。
『おしたいもうす』 『お慕い申しあげます』 と、裃着けて告られたら、それまでさしたる感情がなかったとしても、 少なからず動揺するでしょう。 きっと、このことばには、 いとしい気持ち、いつくしむ心、大切にしたい思い、敬う心 […] 『ぞんざいせんばん』 「いい加減」ということばだが、清濁併せ吞む多様さで、いい加減にしてほしい。 アクセントが、前につくか後につくか、で意味が異なる。 前につくのが「いい湯加減」とか「丁度いい加減」とかと、用いられる、「 […] 『ふうぶん』 風に聞くと書いて『風聞』。 うわさが立つということは、そこに何かがある、何かが起きている その何かを風に聞くというのだから、詩的で素敵。 日本人はいつも風に何かを聞いていた。風を敏感に感じとってきたのだ。 […] 『じぎにおよばぬ』 同席するようすすめられたけど、「遠慮します」とお断りするケースでのひと言が、「じぎつかまつる」(辞儀仕る)。 「辞」は、別れをつげること。 礼儀正しく辞する、ということで「辞儀」。 「辞退」「遠慮」の […] 「おくがたさま」 他人の妻の敬称。武士の時代、その呼び方は、身分によって異なった。 ☞大名の夫人は「お方さま」と尊称された。 別に正妻のことを「北の方」ともいった。寝殿造りの北の対に住んだことからいう。 ☞ […] 『らちをあける』 「この一件、らちをあけてみせやす」このひと言から、神田三河町の半七親分の謎解きが披露される。 岡本綺堂の『半七捕物帳』は、時代推理小説の先駆け、日本の探偵小説のルーツとされる作品。 居ながらにして幕末の […] 『さても、めんような』 「めんよう」は、名高いとか名声という意の「めいよ」(名誉)から生まれた、というと、さても面妖だが、 「めいよ」(名誉)が「めいよう」になり、さらに音変化して 「めんよう」(面妖)となったのだとされ […] 『まかりこす』 香具山と耳梨山があひし時 立ちて見にこし 印南国原」(万葉集) 「今こむと 言ひしばかりに長月の 有り明の月を待ち出でつるかな」(古今和歌集) 古語の「く」(来・自動詞カ行変格活用)という語は、「来る」と […] 『そくさい』 何事もなく達者であること、即ち元気でいることを「そくさい」という。漢字にすると「息災」。 「息」は「やめる」、「しずめる」の意。 「災」は「わざわい」。 そもそもは仏教用語で、仏の力で、災いや病いを除くこと […] 『たいぎである』 「たいぎ」(大儀)とは、朝廷で行われる最も重要な儀式のことをいう。 「大儀である」は、この儀式への「ご出席ご苦労さま」が原義。 いつしか、何かの働きや足労をねぎらうことばとして、目上の人が目下の者にかけ […] 『これにてごめん』 武士が、辞するときのフルワードは 「さようしからばこれにてごめん」(然様然らば是にて御免) で、実に行儀のよい挨拶になる。 が、挨拶にしてはくどくどしいので、同輩間や日常使いでは、省略して「これにて御 […] 『そつじながら』 『そつじ』(率爾)とは、「だしぬけ」「とつぜん」「いきなり」の意。 「率」は、今でもいう「そつがない」の「そつ」、本来は、無駄とか手抜かりの意。 「爾」は、「なんじ」とか「それ」「そこ」などの意もあるが […] 『よきにはからえ』 「よきにはからえ」(良きに計らえ)などと、 この様に言える立場の人は限られる。 時代劇なら殿さまの専売特許のような科白。 ☞「よき」は「よく」で、「念入りに」「上手に」「巧に」。 「はからえ」は「はか […] 『さんごくいち』 「三国一」(さんごくいち)とは、日本・唐土・天竺の中で第一であること。 外国のことをさして、唐天竺(からてんじく)といった。 唐土(もろこし・中国)と天竺(インド)。日本を含めこの三国が世界だった。 そ […] 『さよう』 「その通りだ」と相手の言っていることを肯定したり、 「はい、その通りです」と首肯く意味の「さよう」のルーツは、上代語の「さあり」(然あり)とされる。 「さあり」が音変化した「さり」(然り)も、「そうである」の […] 『だいじない』 「だいじない」の漢字表記は「大事ない」。 読んで字の如しで、おおごとではない、こと。 「かまわない」「さしつかえない」「平気だ」「心配することはない」 「たいしたことはない」などなど意味し、要するに「大丈 […] 『しょうしせんばん』 「しょうし」(笑止)は、「困ったこと」が第一義。 「気の毒なこと」「かわいそうなさま」「滑稽なこと」、さらに、「笑っていられない」と「笑わずにはいられない」、 相反する意味を持つ。 ☞そもそもは、大 […] 『きするところ』 「つまり」「結局」「要するに」という意味で、武士が言葉にしていたのは、「きするところ」(帰するところ)ではないかと思う。 「落ち着く」「至る」という意味の「帰する」を 「こと」とか「場合」の「ところ」で […] 『てもとふにょい』 当座の持ち合せが無い、懐がさびしい、ときなどに「てもとふにょい」につき、といって切り抜ける。 「てもと」(手元)は、手の届くあたり。 「ふにょい」(不如意)は、読んで字のごとく、意の如くならない、「ま […] 『ぜひもない』 「ぜひ」(是非)とは、物事の善いこと悪いことのこと。 「是」は、「善し」「正しい」。 「非」は、「あらざる」「あやまり」「不正」。 「是非いかにも弁へ(わきまえ)がたし」(平家物語)というように、物事の善 […] 『がてんがいく』 「がてんがいく」、 「がてんがいかない」。 いくもいかないも「合点」の一言で、 半七も、伝七も、平次だって、捕物帳は、ここから幕が開く。 「がてん」(合点)は和歌や俳句で優れた作品の頭に付ける符合。それ […] 『かんにん』 「堪忍」の「堪」は「たふ」で、「こらえる」。 「忍」は「しのぶ」で、「がまんする」。 「忍」を解字すると、心に刃、字面からして痛い。 この痛さをがまんする、こらえる強い心を表している。 武士にとって「忍」の […] 『ゆるがせにしない』 「ゆるがせ」(忽せ)は、語感は力強いのだが、その意味となると、ぼんやり、頼りない。 「注意を向けないで、物事をいい加減にしておくさま」 「手を抜いておろそかにするさま」をいう。 ☞語源は、「ゆるいか […] 『ぬれぎぬ』 「ぬれぎぬ」(濡れ衣)は、「根も葉ものないうわさ」「無実の浮き名」「身に覚えのない罪」。 「ぬれぎぬをのみきること、いまははらへ捨ててむと」(和泉式部集) ☞「ぬれぎぬ」は、文字通り雨水や海水などに濡れた衣 […] 『かご』 「のりもの」は、人を乗せて運ぶものの意で、馬、牛、車などを称し、上代から言葉として、使われている。 「花の春、紅葉の秋、のりものを命(おほ)せて向かひ」 (常陸国風土記) 江戸時代になると、 とくに許された者が […] 『たわけ』 「ばかもの」ということば自体、南北朝時代の文献にみられるという。 「ばかのもの」といい、 「狼藉をはたらく者」の意味で用いられている。 いつごろから、「乱暴者」から、現代使われているような「愚かしい」という意 […] 『こまち』 美人をいうのにも等級があるのだそうだ。 横綱が「佳人」で、大関が「麗人」そして関脇が「別嬪」だという。 「別嬪」は、単に美しいのではなく非常に美しい女性で、これに育ちの良さが加わると「麗人」、知性まで備わった […] 『けしからぬ』 「ぶれい」(無礼)も武士語として、時代劇などの登場頻度は高い。 「無礼の段御容赦」などと用いられる。 「蛮夷僭上無礼の至極ぜひにおよばず候」(太平記) “武士が身分をわきまえず無礼を極めるのは、仕方がない […] 『てんかたいへい』 「平和」は、明治に入ってもたらされた。「peace」の翻訳語として造語されたのだ。 それまで「和平」という漢語はあったが、「和することによって平らぐ」で、戦争状態だったものが仲直りするという意味だった […] 『ごちゅうしんにおよぶ』 「ほうれんそう」と聞いて「ポパイ」と答える人は、相当長い間人間をやっきたに違いない。 恋人のオリーブがピンチになると、缶詰を握りつぶしてほうれん草を口にほうりこむ。腕の力こぶがみるみる大きくなっ […] 『いなことを』 「いなこと」(異なこと)の「い」(異)とは、普通とは異なっていること。 「妙なこと」「不思議なこと」「おかしなこと」の意味。 「い」(異)ひと言は、現在の「えっ?」のようなものだろう。 言葉として口に出す […] 『あっぱれ!』 殿様が扇を開いて「天晴れ!ほめてつかわす」というのは、時代劇コメディの定番。 歴史ものではあまり見られない。 ということで、「天晴れ!」は、肩肘はらずに面白半分で、使える武士語といえそうだ。 ☞「あっぱれ […] 『まげて』 「まげて」とは、道理や意志に反して行動するさま。 「理をまげて」の意。 無理を承知で頼むときに使う。 自分の要望ををなんとか了承してほしいと相手に願う気持ちを表す。 無理でも。是が非でも。なにがなんでも。 「 […] 『げちする』 「げち」は、命令、指図すること。 上から下に知らしめるから、漢字表記は「下知」。 「命令する」は「下知する」。 ☞『平家物語』には、戦記シーンで「下知」が頻出する。(げぢと読む) “みな平家の下知とのみ心得 […] 『めんもくしだいもござらぬ』 「めんもくない」というところを 「面目次第もないことでございます」と、幾重にも丁寧を重ねたのが、 「面目次第も御座らぬ」。 「世間に合わせる顏がございません」という意味がまぶされた、お詫びの […] 『やくする』 義を重んじる武士同士の間で、あえて約束などをしただろうか、とふと考えた。 約束というのは、破られては困ることを破られないようにするために、互いを拘束する決め事。だとすると、 信義にもとることはありえないとす […] 『ふかくをとる』 「ゆだん」気を緩めること、注意を怠ることを「油断」と表記する。 いったいどのような事情から「油を断つ」という漢字を宛てるようになったのか? ☞語源も諸説あるようで、ひとつは、大般涅槃経に所収の「王、一臣 […] 『じぶん』 テレビドラマ「相棒」のなかで、杉下右京が「そろそろ参る時分だ」と何気にもらした。 “えっ、じぶん、って、自分のことじゃないよね”、と耳を疑った。 「じぶん」を漢字表記すると、時間の「時」と「分」で「時分」。 […] 『わたりにふね』 どうやって向こう岸に渡ろうかと思案していた、ちょうどそのとき、 どうぞお使いくださいとばかりに目の前に舟が寄せてきた。 なんとラッキーなことだ、と。 この挿話が、法華経の「渡りに船を得たるが如く」の一文 […] 『心得て候』 「こころえ」(心得)、今日でも、何かをする際に知っておくべきこと、習ったといえる程度の技芸を身につけていること、の意味で使われる。 「心得る」といって、理解する、了解する。 「心得た」といえば、細かい事情な […] 『しんざんもの』 「ルーキー」とは、メジャーリーグMLBの新人を指す。 大谷翔平も日本での実績にかかわらず、MLBでは、ルーキー。 新人王おめでとう。 メディアは、大谷を二刀流と称している。 なんと武士語である。 黒船の […] ☞『子の刻』 「零時」というのは、1時から1時間を引いた時。 一日が始まる時刻。明治初期の太政官逹では、夜中の12時を「午前零時」、昼の12時を「午前12時」と表記するものとなっている。 江戸時代の時刻の呼称は、二通りあ […] ☞『道行き』 「みちゆき」(道行き) このことばの第一義は、読み通り、道行くこと、道中。また、道の行き方。 古くは、「道行き」は、出発地から目的地に到着するまでの道程を口頭で語ったもので、言語化された地図だとも、あるいは […] ☞『げせぬ』 大川端に流れ着いた男女の土左衛門。冥途への道行き離れまいと、 手首と手首を結んだ帯締め紐に、目をおとした、銭形平次。 そこでひと言「こいつぁ、げせねぇ」。 平次親分の頭をかすめた疑いがもつれた糸をするりとほ […] <表記凡例>『現代語』☞『武士語』※読み解き>用例/実例◯別義(武士語の他の現代語意味)◆参考 [あ]行 『あいしています』(愛しています)☞『おしたいもうす』(お慕い申す)☞『こう』(恋う☞『こがれる』(焦がれる)☞『 […]おすすめ記事
逆引き武士語『お慕い申す』☜「愛しています」
逆引き武士語『ぞんざい千万』☜「いい加減」
逆引き武士語『風聞』☜「うわさ」
逆引き武士語『辞儀に及ばぬ』☜「遠慮するな」
逆引き武士語『奥方様』☜「奥さん」
逆引き武士語『埒を明ける』☜「解決する」
逆引き武士語『面妖な』☜「奇妙だ」
逆引き武士語『罷り越す』☜「来る」
逆引き武士語『息災』☜「元気です」
逆引き武士語『大義である』☜「ご苦労さま」
逆引き武士語『是にて御免』☜「さようなら」
逆引き武士語『率爾ながら』☜「失礼ですが」
逆引き武士語『よしなに』☜「好きにしろ」
逆引き武士語『三国一』☜「世界一」
逆引き武士語『然様』☜「その通り」
逆引き武士語『大事ない』☜「大丈夫だ」
逆引き武士語『笑止千万』☜「ちゃんちゃらおかしい」
逆引き武士語『帰するところ』☜「つまり」
逆引き武士語『手元不如意』☜「手持ちがない」
逆引き武士語『是非もない』☜「どうにもならない」
逆引き武士語『合点がいく』☜「なるほど」
逆引き武士語『堪忍』☜「忍耐」
逆引き武士語『忽せにしない』☜「抜かりなく」
逆引き武士語『濡れ衣』☜「根も葉もない噂」
逆引き武士語『駕籠』☜「乗り物」
逆引き武士語『たわけ』☜「馬鹿者」
逆引き武士語『小町』☜「美人」
逆引き武士語『怪しからぬ』☜「無礼だ」
逆引き武士語『天下太平』☜「平和」
逆引き武士語『御注進』☜「報・連・相」
逆引き武士語『異な事』☜「また妙なことを」
逆引き武士語『天晴れ』☜「見事だ」
逆引き武士語『曲げて』☜「無理を承知で」
逆引き武士語『下知する』☜「命令する」
逆引き武士語『面目ない』☜「申し訳ない」
逆引き武士語『約する』☜「約束する」
逆引き武士語『不覚をとる』☜「油断した」
逆引き武士語『時分』☜「よいころあい」
逆引き武士語『渡りに船』☜「ラッキーだ」
逆引き武士語『心得て候』☜「理解する」
逆引き武士語『新参者』☜「ルーキー」
逆引き武士語『子の刻』☜「零時」
逆引き武士語『道行き』☜「ロマンス」
逆引き武士語『げせぬ』☜「分からない」
逆引き武士語まとめ☞あ行〜わ行