逆引き武士語『息災』☜「元気です」


『そくさい』

何事もなく達者であること、即ち元気でいることを「そくさい」という。漢字にすると「息災」。
「息」は「やめる」、「しずめる」の意。
「災」は「わざわい」。
そもそもは仏教用語で、仏の力で、災いや病いを除くことを
いった。転じて健康で元気なさまをいう
「ご武運長久御息災」と慣用する。

☞「いみじう易き息災の祈ななり」(枕草子/二百七十七)

体が丈夫であること「たっしゃ」といった。
「達者」と表記するように、到達した人、達人ということで、学問・技芸などの道に熟達している者のことが、第一義に優先される。現代でも「筆遣いが達者ですね」と上手をほめる。
「しっかりしている」というようなイメージから、丈夫、元気につながったのか。

「随分と御達者で」といい残して立ち去るのは、テレビ時代劇の木枯らし紋次郎。
楊枝をくわえて「あっしにはかかわりがねぇ」と突き放していながらも、礼儀は心得ているらしく「健やかにお過ごしください」なんて心憎い。
「ずいぶん」とは、「たいそう」とか「大いに」「できるだけ」「分相応」という意味だ。

☞病やけがなどが快方に向かって、元気になる。この場合は、「げんき」(験気)の漢字があてられる。
「験気」は、「気分がよくなる」「加減がよくなる」の意だが、「元気」と同じ意味でも用いられる。

☞病気が全快して元気になるは、
「ほんぷくする」(本復する)。
「本復」
は、身分や財産を取りもどすこともいう。

☞病が回復することを「さわやぐ」(爽やぐ)ともいう。
「気分が晴れやかになる」の意で
「お気がさわやぐ」というような言い方をする。
「さはやぎ給ふひまありてなむ」(源氏物語/夕霧)
“気分がさわやかになりなさる間もあって”

[一筆余談啓上]

「息災」で、頭にうかんできてしまったのが、井上陽水の顏だ。
頭の中をカローラが走り出した。
ゆっくりと静かに助手席の窓があき、陽水がこちら向きに語りかける、独得のあまぬるい口調で、
「みなさ〜ん お元気ですか」と呼びかけて、「ウフフ」と走り去る。
さても面妖なのに、あるいはそれゆえになのか、記憶に刷りこめられてしまった。
陽水は、免許を持っていなかったので、それで、助手席が主役の珍しい車のCMになったらしい。


「お元気ですか」が「くう、ねる、あそぶ」のCMテーマと微妙に重なって、心に浸透させられた。

その昔、表参道で信号待ちしているとき、大きな体躯が隣に立った。これまで嗅いだことのない香りが、鼻について、にらんでみたら、井上陽水だった。背も高く、少々見上げるかっこうになって、にらみもきかなかった。一歩が大きく、さっさと、先に渡りきって、行ってしまった。
「お元気ですか」とも言わず「ウフフ」とも洩らさずに。
さてさて、これも「一期一会」というのでしょうか。
これ、安土桃山時代
の茶人山上宗二のことば。
一生に一
度限りの会合という、茶事の実意を現したものだという。大老井伊直弼が好んで用いたことで、一般に広まった。

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