逆引き武士語『天晴れ』☜「見事だ」


『あっぱれ!』

殿様が扇を開いて「天晴れ!ほめてつかわす」というのは、時代劇コメディの定番。
歴史ものではあまり見られない。
ということで、「天晴れ!」は、肩肘はらずに面白半分で、使える武士語といえそうだ。
☞「あっぱれ」(天晴れ)は、
感動するほど優れているさま、見事なさまをほめたたえるときに発する感動詞。
光栄にしてありがたい、上司からのほめ言葉。

☞喜怒哀楽すべてについて感動を表した「あはれ」が起源。
感動したときに自然と出る「ああ」と同じ意味の「あは」に接尾語の「れ」がくっついたもので、「嘆賞」「悲哀」などの感情を表す言葉。
ものの移りゆく様やそのもの悲しさに、心が揺れ動く様子を移す言葉で、朝廷貴族が用いていた。

☞武士の擡頭にともなって、賞賛の意味をこめて言うときには、「あはれ」を促音便化し、「あっぱれ」と強い調子の語にした。
貴族言葉では、物足りないと感情移入温度をぐっと高めるために、武士っぽくアレンジしたということ。
「遖」という国字も生んだが、「天晴れ」と当て字したのも、天が晴れ渡るほどの感動気分のあらわれだろう。

☞「木曽殿の御前にかしこまって願書を書く。あっぱれ文武二道の達者かな」
(平家物語)

☞「よくやった、お見事」の意では「でかした」(出来した)もある。
「でかす」(出来す)は、事をしとげる、うまくやる。
「これも馬子殿おかげぢゃ、でかいた、でかいた」(浄瑠璃/丹波与作)

「天晴れ」「でかした」も目線は上気味だが、
仲間内で高い評価、賞賛に値するさまをいうのが「かんぷくつかまつる」(感服仕る)だ。
人の行った行為や技術などに深く感心し、尊敬の気持ちを抱くこと。
「武勇の誉れまさに感服仕った
深く感心いたしました、素晴らしいなぁ、とてもかなわない、まいりました、すっごい尊敬しちゃう。というようなニュアンスだ。
「余輩の考えにては、この妙策に感服するを得ざるなり」(福沢諭吉/学者安心論)

「したり」(為たり)も、
他人の行為に対しては、感嘆語として、「よくやったお見事」「うまくやった」の意で用いる。
因に、自分のしたことに対しては、「しまった」の意に。
「これはしたり」で、「あ!しまった」「あっそうか」「私としたことが」という風な、失敗に気づいたときに用いる」
「や、これはしたり、大事の用をとんと忘れた」(浄瑠璃/道中双六)

[一筆余談啓上]

「ちゃきちゃきの江戸っ子」。
嫡子(ちゃくし)から嫡子(ちゃくし)へ、家を継いできた正統の血筋だ、生粋だということ。
江戸っ子は、お世辞が苦手で口の悪さは愛情の裏返し。粋でいなせで勇み肌、はきはきして気風がよい、というけど、投げやりで大袈裟で、見栄っ張りだけのようにも思う。
そういう、
ポンポンものを言うけれど、悪気はなくさっぱりしている江戸っ子の気性を詠んだ川柳が、これだ。
「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し 口先ばかりではらわたはなし」

江戸っ子の言葉といえば「べらんめえ」。
職人や鳶職が、忙しく働くなかでのやりとりの必要から、短く聞き取りやすく転じていった。
「あたりまえよ、べらぼうめ』を「あたぼうよ」
「何を言ってやんだ」を「てやんでぃ」
「なんということだ」が「なんてこった」
「そうするとこういうことなのか」を「するってえと何かい」というように。

「おめー」「わりい」「ふてー」「そりゃー」「行きゃー」「打ちゃー」とかのいかにもべらんめぇらしいことばは、人足たちの使う侠言。
「ひっさげる」「ひったくる」「ぶんまわす」「ひやっこい」「とっとと」「でかい」などは、「六法者」、とよばれたかぶきものの旗本奴や町奴の間で使われていた「六法詞」に発する。

「うまいのうまくないの」いったいどっちなのかといえば「とてもうまい」。
「おあいにく様」は、その手にはのらないよ。
「肴をあらさねぇ」といって、塩だけで一杯。つまみに手をつけない。
タマゴはゆでずに「うでる」といい、うでたまごになる。
「どまんなか」は、ズバリ的中まんまんなか。
「はんじょうをいれる」は、からかう、やじるの意。半畳は、芝居小屋で客に貸したござのこと。役者がへただったり、面白くなかったりすると、舞台に投げ入れた。相撲で土俵に座布団が飛ぶのは、このなごりか?
「にっちもさっちも」は、算盤から生じた。二進は二割る二、三進は三割る三で、ともに割り切れる。二でも三でも割り切れない、計算できないことを
「二進も三進もいかない」といった。それを身動きできないの意で「にっちさっちもいかない」としたところがいかにもせっかち、勢いがよければいいの江戸っ子の面目躍如の物言いだ。

惚れた腫れたも江戸言葉は楽しい。
キュンとかビビッときたときには「とーんとくる」。
すとーんと胸に落ちてきた感じ、よくわかる。
さらに、ぞっこん惚れたは「おっこちきる」まさに、Fall in Love。

 

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